東京高等裁判所 平成8年(行ケ)306号 判決 1998年9月22日
福井県福井市日之出5丁目3番23号
原告
株式会社アサヒオプティカル
代表者代表取締役
小野稔
訴訟代理人弁理士
蔦田璋子
同
蔦田正人
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
吉野公夫
同
片寄武彦
同
吉村宅衛
同
小川宗一
同
廣田米男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成7年審判第23175号事件について平成8年9月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、考案の名称を「半製品レンズ」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、平成元年3月31日に実用新案登録願(平成1年実用新案登録願第38235号)をしたところ、平成7年9月4日に拒絶査定を受けたので、同年10月26日に審判を請求し、平成7年審判第23175号事件として審理された結果、平成8年9月17日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年11月11日にその謄本の送達を受けた。
2 本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載
近視矯正用単焦点眼鏡レンズに使用されるプラスチック製の半製品レンズであって、凸面が球面形状の未加工面に、凹面が球面度の曲率あるいは球面度と乱視度を合せた曲率を持ちかつ光学中心部から周辺に向って曲率が小さくなる形状等の非球面形状をなす研磨加工不要な成形レンズ面に成形されてなることを特徴とする半製品レンズ。(別紙図面1参照)
3 審決の理由
別添審決書「理由」の写のとおりである。以下、特開昭52-56950号公報を審決と同様に「引用例」という。引用例については、別紙図面2参照。
4 審決の取消事由
審決の理由1は認める。同2のうち、引用例にa)ないしc)の記載があること及び引用例では、成形により連続的に曲率が変化する面を通常凹面とするとしていることは認め、その余は争う。同3のうち、引用例記載の発明の「有機物質」、「中間製品」、「球面状」、「再加工を行う面」、「連続的に曲率が変化する形状」、「成形されてなる完成面」が、それぞれ本願考案の「プラスチック」、「半製品レンズ」、「球面形状」、「未加工面」、「非球面形状」、「研磨加工不要な成形レンズ面」に相当すること及び引用例記載の発明と本願考案に審決認定の相違点があることは認め、その余は争う。同4、5は争う。
審決は、引用例記載の発明の技術内容を誤認した結果、一致点の認定を誤り、相違点の判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)
ア 審決は、引用例に「凹面を成形により連続的に曲率が変化する完成面とし、かつ凸面を初めに球面状に成形してその後これを再加工すること」(以下「甲構成」という。)が実質的に記載されていると認定した。しかし、審決の上記認定は誤りである。
イ 引用例は、「本発明は・・・その少くとも一面が・・・曲率が連続的に変化する部分を有する眼鏡レンズに関し」(2頁右上欄2行ないし5行)、「その一面(通常凸面側)は成形により連続的に曲率が変化する有効部分を有しまた他面は初めに例えば球面状に形成されて居り」(同欄15行ないし17行)と記載されているにすぎず、甲構成を積極的に記載しているわけではない。そして、引用例には、実施例として、凸面を成形により連続的に曲率が変化する完成面とし、かつ、凹面を初めに球面状に成形して、その後これを再加工することのみが記載されており、甲構成を備えるものは記載されていない。
ウ<1> 仮に、引用例記載の発明において、中間製品10の凹面12が成形により連続的に曲率が変化する完成面とされているものを含むとすれば、その場合には、凹面12に周辺縁面15を設け、この周辺縁面15にカップ状の型31の周縁を当接させて、これを介して中間製品を加工機上に保持させる必要がある。そうすると、中間製品10の凹面12を成形する成形型17の上面(成形空間の内面)の周囲に平面部25を設ける必要があり、この平面部25は、ジョイント19の範囲を超えて半径方向に内方へ延長されるに十分な幅を有している必要があり、その形状は、別紙図面3に示すようなものとなる。ところが、中間製品10の凹面12は成形により曲率が連続的に変化する完成面であるから、凹面12のための成形型17の上面は高度に研磨しなければならないところ、湾曲面と平面部との間の凹んだ角部の近くにおいては、研磨具先端のバフが平面部25に衝突し、角部にうまく沿わないため、研磨をすることは不可能である。
以上のとおり、引用例記載の発明においては、中間製品の凹面を成形により連続的に曲率が変化する完成面とすることはあり得ないから、当業者は、引用例に甲構成が記載されていると理解することはない。
<2> 被告は、上記角部の近くを研磨することが不可能であるなら、そのような成形型により成形される中間製品の周辺部分は、光学的有効部分として使用しなければよい(必要なら切り落としてしまえばよい)と主張する。しかし、これは、眼鏡用プラスチックレンズの製造の実態を考えない主張であり、市販のレンズで、製造段階でその周囲を切り落すとすれば、レンズに用いられる上質で高価なプラスチック材料の多くが無駄になることになるから、当業者が、このような技術を引用例から読み取ることはない。
<3> また、被告は、成形型の窪んだ角部の近くを研磨することが不可能であるなら、本願考案の半製品レンズ自体も成形できないことになってしまう旨主張する。しかし、本願考案は、得られた半製品を引用例記載の発明と同様の方法で加工(研磨)するものではないから、成形型の角部が研磨できないために実施ができないということはない。
(2) 取消事由2(相違点の判断の誤り)
本願考案の技術的課題は、従来の半製品レンズにおいて、処方レンズに加工するに当たり、凹面を研磨加工する必要があり、しかも、この凹面が球面状であるため、これを非球面に研磨加工することが困難である点を解決するところにある。これに対して、引用例記載の発明の技術的課題は、焦点距離が連続的に変化するレンズを中間製品から研磨加工する際の中間製品の保持方法の改良に関するものである。
このように、両考案の技術的課題は顕著に相違するから、仮に引用例に甲構成が示唆されていても、当業者が本願考案の課題を解決するために甲構成を採用することは極めて容易にできたことではない。したがって、審決が、相違点(1)、(2)について、当業者が極めて容易に採用することのできる設計事項であるとした判断は誤りである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の反論
1 請求の原因1ないし3の事実は認める。同4は争う。本件審決には、取り消されるべき事由は存在しない。
2 被告の主張
(1) 取消事由1について
ア 引用例の実施例においては、凸面を成形により連続的に曲率が変化する完成面とし、かつ、凹面を初めに球面状に成形して、その後これを再加工するものが記載されているに止まる。しかし、引用例には、審決の理由2のa)、b)に認定のとおりの記載のほか、「無論本発明は上述の実施態様に限定されるものではなく、あらゆる変形を包括するものである。特に該円板の凹面はその凸面を補いあるいはこの代りに曲率連続変化面を有していてもよい。」(5頁右上欄14行ないし17行)との記載があり、これらの記載からみれば、甲構成が実質的に記載されているものである。
イ<1> 原告は、成形型17の上面の凹んだ角部の近くを研磨することは不可能であると主張する。しかし、技術的にみて、成形型の角部の近くを研磨することが全くできないというものではない。それは、ただ単に、該角部を研磨することが比較的むずかしいということだけである。
<2> 仮に、上記角部の近くを研磨することが不可能であるとしても、そのような成形型の角部付近の面により成形される中間製品の周辺部分は、光学的有効部分として使用しなければよい(必要なら切り落としてしまえばよい)だけのことであり、この成形型の研磨の問題は、当業者が引用例に甲構成が記載されていると理解することの妨げとはならない。
<3> 本願考案の「半製品レンズ」も、別紙図面3に示されるような角部を有する成形型を用いて作成されるものと考えられるから、上記角部の近くを研磨することが不可能であるなら、本願考案の「半製品レンズ」自体も成形できないことになってしまい、本願考案自体が実施不能ということになるはずである。
(2) 取消事由2について
引用例記載の発明と本願考案とは、「眼鏡レンズに使用されるプラスチック製の半製品レンズ」として共通の技術分野に属するものであり、引用例には甲構成が実質的に記載されているといえるから、技術的課題が相違するか否かにかかわらず、上記引用例に記載された甲構成を当業者は極めて容易に採用し得たものである。そして、相違点(1)、(2)は、本願考案の属する技術分野では周知の事項であるから、当業者が極めて容易に採用し得る設計事項であるとした審決の判断に誤りはない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
第2 本願考案の概要
甲第3号証(平成7年11月27日付手続補正書)によれば、本願明細書に記載された本願考案の概要は、以下のとおりと認められる。
1 本願考案は、眼鏡処方に基づいて研磨加工されて処方レンズとして完成されるプラスチック製の半製品レンズに関するものである。(1頁11行ないし12行)
従来、プラスチック製半製品レンズ(L1’)は、第3図のように、凹面(11)が、任意の曲率を持ったモールドにより成形されて該モールド面に対応する球面形状の未加工面(b’)に形成され、また、凸面(12)が、任意の形状及び曲率で高精度に研磨加工されたモールドにより成形されて、該モールド面に対応する球面形状の研磨加工不要な成形レンズ面(a’)に形成されており、顧客の眼鏡処方が決定されると、その処方に基づいて未加工の前記凹面(11)を研磨加工することにより、顧客の所望する第4図のごとき処方レンズ(L2’)を完成し提供することとしていた。(1頁23行ないし2頁4行)
しかし、前記従来タイプの半製品レンズにあっては、これを処方レンズに加工するには、凹面(11)側を研磨加工する必要があり、しかも、この凹面(11)が球面形状をなしているため、仮に形状的に複雑な局面、例えば、トーリック面の乱視用レンズを研磨加工する場合、多種類の複雑な治工具を要するとともに、極めて高度な技術を必要とし、そのため加工精度の高いレンズが得られず、また、多大な加工時間を要するといった欠点があった。
また、一般にプラスチック製の単焦点レンズにおいて、半製品レンズを研磨加工して完成する処方レンズは、レンズメーカーにおいて通常的に生産される範囲以外の特殊な度数用として主に使用されるものであり、球面度及び乱視度は、かなり強度数のレンズが主体である。そのため、前記のように凹面(11)を研磨加工することで完成されるレンズは、第4図のように、その縁厚(B)がかなり厚くなり、使用上及び外観的に好ましいものでない。
更に、球面度と乱視度とを併せ持つトーリックレンズでは、一面がトーリック面で、もう一方の面が球面また平面になっているため、研磨加工して製作されたレンズには球面収差が生じる欠点があり、前記のように強度数であるがゆえに、この球面収差の問題がより大きいものとなっている。
そこで、本願考案の目的は、顧客の眼鏡処方が決定された後の研磨加工に際して、複雑な治工具を必要とせずに容易に研磨加工でき、しかも、球面収差による像の歪曲もなく、縁厚も薄く体裁のよい完成品レンズを、顧客の処方に基づいて容易に得ることができるプラスチック製の半製品レンズを提供することにある。(2頁6行ないし下から4行)
2 上記の課題を解決する本願考案は、実用新案登録請求の範囲記載の構成を備えている。(2頁下から2行ないし3頁3行、1頁4行ないし8行)
3 本願考案の半製品レンズによれば、凹面が特殊な非球面形状の研磨加工不要なレンズ面になっており、凸面が球面形状の未加工面になっているので、処方に基づいて球面形状の凸面を研磨加工するだけで、複雑な治工具や高度な技術を要さず容易に高精度な光学非球面レンズを得ることができる。
しかも、半製品レンズの研磨加工不要な凹面を、球面度の曲率あるいは球面度と乱視度とを合せた曲率を持ち、かつ、光学中心部から周辺に向かって曲率が小さくなる形状等の特殊な非球面形状にしてあるので、乱視用レンズを加工する場合でも、未加工の凸面において乱視度の研磨加工を必要とせず、これにより研磨加工における加工の難易が軽減され、加工歩留も向上し、加工時間も短縮できる。しかも、球面収差の生じないレンズを得ることができ、また、レンズの縁厚が薄くなり軽量で、かつ、見ばえも良くなる。(5頁10行ないし21行)
第3 審決の取消事由について判断する。
1 取消事由1について
(1) 引用例に、審決の理由2のa)、b)、c)摘示の記載があることは当事者間に争いがない。そして、甲第4号証によれば、引用例には、「無論本発明は上述の実施態様に限定されるものではなく、あらゆる変形を包括するものである。特に該円板の凹面はその凸面を補いあるいはこの代りに曲率連続変化面を有していてもよい。」(5頁右上欄14行ないし17行)との記載があることが認められる。以上の記載によれば、引用例には、実施例としては、凸面を成形により連続的に曲率が変化する完成面とし、かつ、凹面を初めに球面状に成形して、その後これを再加工するものが記載されているものの、これに限定されるものではなく、実施例とは逆に、凸面の代わりに凹面を成形により連続的に曲率が変化する完成面とし、凸面を初めに球面状に成形して、その後これを再加工すること(甲構成)も実質的に記載されているものというべきである。
(2) もっとも、原告は、引用例記載の発明において、成形型17の上面の凹んだ角部の近くを研磨することは不可能であるため、中間製品の凹面を成形により連続的に曲率が変化する完成面とすることはできないから、当業者は、引用例に甲構成が記載されていると理解することはないと主張する。しかし、上記角部の近くを研磨することが不可能であるとしても、上記角部付近の面により成形される中間製品の周辺部分は、切り落とす等の方法により光学的有効部分として使用しなければよいのであるから、上記角部付近の研磨の問題は、当業者が引用例に甲構成が記載されていると理解することの妨げとはならないというべきである。
この点に関して、原告は、市販のレンズで、製造段階でその周囲を切り落すとすれば、レンズに用いられる上質で高価なプラスチック材料の多くが無駄になることになるから、当業者が、このような技術を引用例から読み取ることはないと主張する。しかし、甲第4号証によれば、引用例記載の発明の中間製品においては、周辺縁面15はもともと光学的有効部分ではないのであるから、これに連続する周辺部分をも光学的有効部分として使用しないという方法を、当業者が引用例から読み取らないということはできない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
2 取消事由2について
原告は、本願考案と引用例記載の発明の技術的課題は顕著に相違するから、当業者が本願考案の課題を解決するために甲構成を採用することは極めて容易にできたことではないと主張する。
しかし、引用例記載の発明と本願考案とは、「眼鏡レンズに使用されるプラスチック製の半製品レンズ」との点で共通の技術分野に属するものであることは明らかである。そして、前記第2の認定事実によれば、本願考案の技術的課題は、従来タイプの半製品レンズを処方レンズに加工するには凹面を研磨加工する必要があり、しかも、この凹面が球面形状であるため、これを非球面等の複雑な形状に研磨加工することが困難であるという点であり、本願考案はこれを解決しようとするものと認められるところ、甲構成を備える発明においては上記技術的課題が解決されるということを当業者が極めて容易に理解できることは明らかである。したがって、当業者が、上記技術的課題を解決するために引用例記載の発明の甲構成を採用することは、極めて容易にできたことというべきである。
そして、弁論の全趣旨によれば、相違点(1)、(2)に係る事項は、本願考案の属する技術分野では周知の事項であったと認められるから、相違点(1)、(2)について、当業者が極めて容易に採用し得る設計事項であるとした審決の認定判断に誤りはない。
3 以上のとおりであるから、本願考案は、引用例記載の発明に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるとした審決の認定判断は相当であって、審決には、原告主張の違法はない。
第4 よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日・平成10年9月8日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
別紙図面1
<省略>
別紙図面2
<省略>
別紙図面3
<省略>
理由
1. 手続の経緯・本願発明
本願は、願書によれば、平成元年3月31日の出願であって、その登録を受けようとする考案(以下「本願考案」という。)は、平成7年11月27日付手続補正書により補正された明細書および出願当初の図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「近視矯正用単焦点眼鏡レンズに使用されるプラスチック製の半製品レンズであって、凸面が球面形状の未加工面に、凹面が球面度の曲率あるいは球面度と乱視度を合せた曲率を持ちかつ光学中心部から周辺に向って曲率が小さくなる形状等の非球面形状をなす研磨加工不要な成形レンズ面に成形されてなることを特徴とする半製品レンズ。」
2. 引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前日本国内において頒布された刊行物である特開昭52-56950号公報(昭和52年5月10日発行。以下、「引用例」という。)には、例えば、次のような記載がある。
a) 「本発明は結像能力が連続的に変化する眼鏡レンズ即ちその少くとも一面が少くとも一本の子午線の少くとも一部に於て曲率が連続的に変化する部分を有する眼鏡レンズに関し、特に有機材料製のかかる眼鏡レンズに関する。」(第2頁右上欄第2~6行)
b) 「しかし焦点距離が連続的に変化する眼鏡レンズを有機物質により成形する場合、少くとも一部の場合には円板状中間製品を使用することが普通であり、その一面(通常凸面側)は成形により連続的に曲率が変化する有効部分を有しまた他面は初めに例えば球面状に成形されて居り使用者が有する他の視力欠陥に適合するよう例えば円筒面、回転体面等の形状とするため再加工することが必要である。
実際には焦点距離が連続的に変化する有効部分の製造が困難なことならびに他の視力補正の種類及び強度の多様性から考えて、想定される焦点距離の連続変化範囲に対応する如き完成面を有する少品種の円板状中間製品を作り、かかる中間製品の他の面を加工して実用上必要とされる用途に適合させるのが最も経済的である。
かかる円板状中間製品の一面に必要な加工を加えるには、反対面とカップ状の型との間に低融点物質を流し込むことにより該反対面上に適当な保持ブロックを付着させて該中間製品を加工機上に保持可能とするのが通常である。」(第2頁右上欄第12行~左下欄第12行)
c) 「第1ないし3図に示す実施態様に於て、本発明に従う焦点距離連続変化眼鏡レンズ作製用の円板状中間製品10は希望する焦点連続変化性能を有する完成面を有し、反対面は半完成であつて好ましくは回転面、たとえば球面状を呈する。
図示の例に於て該中間製品10の完成面は凸面11であり、半完成面は凹面12である。」(第4頁左上欄第2~8行)
そして、上記引用例では、成形により連続的に曲率が変化する面を通常凸面とするとしているが、凹面を該曲率が変化する面とすることを排除しているわけではなく、上記引用例には、凹面を成形により連続的に曲率が変化する完成面とし、かつ凸面を初めに球面状に成形してその後これを再加工することが実質的に記載されていると言える。
したがって、これらの記載事項と図面の記載を総合すると、結局、引用例には次のような考案が記載されている。
眼鏡レンズに使用される有機物質製の中間製品であって、凸面は球面状に成形された再加工を行う面からなり、凹面は連続的に曲率が変化する形状の成形されてなる完成面からなる中間製品。
3. 対比
そこで、本願考案と引用例に記載の考案とを対比すると、後者の「有機物質」、「中間製品」、「球面状」、「再加工を行う面」、「連続的に曲率が変化する形状」、「成形されてなる完成面」は、それぞれ前者の「プラスチック」、「半製品レンズ」、「球面形状」、「未加工面」、「非球面形状」、「研磨加工不要な成形レンズ面」に相当する。
したがって、両者は、
眼鏡レンズに使用されるプラスチック製の半製品レンズであって、凸面が球面形状の未加工面に、凹面が非球面形状をなす研磨加工不要な成形レンズ面に成形されてなる半製品レンズ。
である点で一致し、次の点で相違している。
(1)本願考案では、凹面の非球面形状が、球面度と乱視度を合せた曲率を持ちかつ光学中心部から周辺に向って曲率が小さくなる形状等をなしているのに対し、引用例では、その非球面形状が記載されていない点。
(2)本願考案の半製品レンズは、近視矯正用単焦点眼鏡レンズに使用されるものであるのに対し、引用例の半製品レンズは、近視矯正用単焦点眼鏡レンズに使用されるものであるのかどうか不明である点。
4. 当審の判断
相違点(1)について、凹面の非球面形状を光学中心部から周辺に向って曲率が小さくなる形状等となし、またレンズ面に球面度と乱視度を合せた曲率を持たせるようにすることは、本願考案の属する技術の分野では周知の事項であり(必要であれば、例えば特開昭64-50012号公報参照)、凹面の非球面形状を球面度と乱視度を合せた曲率を持ちかつ光学中心部から周辺に向って曲率が小さくなる形状等とすることは、この技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がきわめて容易に採用することのできる設計的事項にすぎない。
相違点(2)について、近視矯正用単焦点眼鏡レンズ自体はこの技術分野では周知のものであり、引用例の半製品レンズを近視矯正用単焦点眼鏡レンズに使用することは、当業者がきわめて容易に行うことのできる設計的事項である。
そして、本願考案の効果も、上記引用例に記載の考案から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別なものではない。
5. むすび
したがって、本願考案は、上記引用例に記載の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。